PPMØBLERを見学したときのこと

11月のこと、デンマークで学生生活を送っていた時、卒業後に取得することになっていたワーキングホリデーの勤務先候補の一つであったPPMøbler社(以下PP)を訪れ工場の見学をさせてもらいました

Lillerødの街は晴れ

学校の寮からバスと電車を乗り継ぎ、コペンハーゲンの北に位置する街Lillerødへ
駅から工場兼ショールームのある住所へ歩きます
デンマークの小さな街の早朝は静かで、商店もまだ閉まったまま
工場へと近づけば近づくほど商店は少なくなり、到着した工場はとてもこじんまりとして、周りは閑静な住宅地といった雰囲気
扉を開け、階段を上がった2階がショールームになっており、pp503(ザチェア)をはじめとした代表作が並べられていました

工場見学

工場はその日、連休の前だったこともあり、職人の半数ほどが休んでおり、どこかのんびりした空気が流れていたように感じます
案内してくれたカリーナさんと作業中の職人と談笑する場面もあり、私が日本で働いていた当時の環境と比べると、やはり大きな乖離があるように見えました
工場は時代を感じさせる傷や塗料、接着剤などの汚れはあるものの掃除は行き届いていた一方で、仕掛品は非常に多く、コンパクトな工場内にジェンガのように大量に積まれていました
大学でその存在を知り、高山での訓練校時代に強く興味を抱くようになったデンマークの家具
そのきっかけとなったウェグナーの椅子がここで作られているんだということを強く感じ、この高価な椅子をこれほど多くの人が求めているということへの驚きを改めて実感しました

PPとWegner

PPmøblerは規模としてはとても小さく、ここで世界中に輸出される家具が作られているということが驚きです
ここで製作される家具はどれもが非常に高価で、信じられないような値段のものあります
しかしこの規模の小ささがPPを現代まで存続させ、デンマークのクラフトマンシップを代表するような存在にまでした大きな要因です
PPの歴史は1953年、いわゆるミッドセンチュリーと呼ばれ、今でも数多くの人を魅了する家具の多くが生み出された時代に始まります
この時代には数々の技術的に成熟したデンマークの家具工房が活躍していましたが、後継問題や経営難など様々な問題を回避することが叶わず後年消えていきました

PPはその時代からのわずかな生き残りの一つです。
この時期にHans・J・Wegner(以下ウェグナー)という時代を代表し、多くの傑作を残したデザイナーから信頼を獲得し、姿を消していった工房からその製造の権利を得たことがPPの運命を決めました
ウェグナーがこの時代に残したデザインは後世に与えた影響も大きく、その製品の価値はただの用を満たすだけの家具に留まることはありません

PPは規模の拡大を望まない

PPは利益の追求や規模の拡大を求めないという経営方針を貫いています
徹底した品質管理と純粋なクラフトマンシップによって生み出される家具には大量生産にはない希少価値があります
大量生産の体制をとって規模を拡大し、その品質や根底にあるものづくりの本質を見失ってしまえば、その希少価値は薄れ大量生産品に埋もれていってしまう
PPという工房のその生産体制、経営理念をブランド化しそこから生み出される家具に家具以上の価値を感じてもらえる努力をPPは実直に確実に続けています

家具を作る側に立ってみれば、この環境は幸せなことだと思います
近年では職人が職人としての充足感を感じる仕事は確実に減っています
CNCやコピックマシンなど自動で3次元曲面を削り出す機械が熟達した職人にしかできなかったことを代替可能なものに変えたからです
これ自体は技術の進歩を礼賛し、取り込んでいくべきものだと考えています
しかしその一方で利益の追求のための効率化は技術を持っているはずの職人にその技術の使いどころを見失わせてしまったとも言えます
家具の工場に勤務していた頃、会社としてお客様に対しては職人の技術が…、クラフトマンシップが…と喧伝する一方で、社内の職人に対してはコスト削減、工数削減を強く要求するその姿勢にどこか違和感を感じ、本当にこの家具はこの値段の価値があるのだろうかと疑問を抱いたことも一度ではありません

PPでももちろんCNCなど自動で切削加工を行う機械の導入はされていますが、前述の経営理念にあわせれば、その理由は効率化というよりは、品質の一定化と職人がその技術の使いどころに集中することができる環境を与える役割を担っているといえます
実際、PPで製造される椅子には複雑な曲線が多いため、工数の削減にそれほど大きく寄与していないという話です
現状の5軸で切削行うCNCにおいても、最終工程の削り出しや研磨には手作業の割合が多く、むしろ職人は仕上げに時間をかけられるようになったようです

家具と職人

今回PPを見学する機会を得て、職人という存在が一体どういうことなのかもう一度考えるきっかけになったように思います
家具の製作における職人という存在はどこにむかうべきなのか
PPは一つの極端な一例を示しているように思います
職人というのは妥協のない最高のものづくりを、自分の持つ技術をもてあますことなく使える環境を求めるものだと思います
PPmøblerは職人にその場所を提供し、それに耐える強気な価格設定をPPで生み出されているという付加価値によって実現しています
職人は工房内の作業員という枠を超え、ブランドを支え、PPmøblerがPPmøblerであるために必要不可欠なものになり得ています

日本において職人が職人たる誇りを感じながら勤務している場所がどれくらいあるのか私には疑問です

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